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東京地方裁判所 平成3年(ワ)9226号 判決

原告

株式会社博報堂

右代表者代表取締役

磯邊律男

右訴訟代理人弁護士

古曳正夫

田淵智久

市川直介

松井秀樹

被告

三精輸送機株式会社

右代表者代表取締役

太田昭比古

右訴訟代理人弁護士

熊谷尚之

高島照夫

中川泰夫

石井教文

池口毅

主文

1  原告の請求はいずれもこれを棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

一  被告は、原告に対し、一八億九三〇九万五九二二円及びこれに対する平成三年三月一九日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求める。

第二  基礎事実(末尾の括弧内に証拠を掲げた事実は当該証拠によって当該事実を認めることができ、その余の事実は当事者間に争いがない。)

一  花博覧会の開催と本件ウォーターライド施設の設置

1  財団法人国際花と緑の博覧会協会(以下「花博協会」という)は、平成二年四月一日から同年九月三〇日までの間、大阪市鶴見区緑地公園を会場として、花と緑に関する文化及び産業の発展、国際交流の促進等を目的として、国際博覧会「国際花と緑の博覧会」(以下「花博覧会」という。)を開催した。

2  ジャスコ株式会社(以下「ジャスコ」という。)は、「野原のエリア」、「街のエリア」及び「山のエリア」からなる約一四〇ヘクタールの花博覧会会場において、会場内のアクセスであると同時に、途中五か所に設けられた展示ドームにおける水にまつわる各種のアドベンチャー体験のできるパビリオン施設として、別紙図面1表示のとおり、「野原のエリア」及び「街のエリア」を通って、中央ゲートとアミューズメントゾーンとを水路で結ぶ三隻連結の大型ボートによる輸送施設を「ウォーターライド・ジャスコ・アドベンチャークルーズ」(以下「本件ウォーターライド施設」という。)として出展し、その事業者としてこれを運営した。

二  本件ウォーターライド施設の概要

1  構成等

本件ウォーターライド施設は、全長約二〇〇〇メートル、幅員約2.4メートル、水深約0.5メートルの高架水路に合計二三編成のボートを浮遊させ、ミキサーポンプによって発生させた循環強制水流と水路間の一部に設置されたベルトコンベアによってボートが約三一分で施設を一巡するようにしたものであって、駅舎、ボート、水路、水中ミキサーポンプ、ベルトコンベア等から構成されている。

駅舎は、中央ゲート付近の「中央ゲート駅」(南ポート)と「街のエリア」内の「街の駅」(北ポート)との二か所にあって、各駅舎の三階には、別紙図面2表示のとおり、それぞれ出発ホームと到着ホームが設けられている。乗客は、いずれかの駅の出発ホームで乗船して、他の駅の到着ホームで下船する仕組みになっている。

各ボートは、重さ約七五〇キログラム、全長五二五センチメートル、幅員約一九〇センチメートル、四人用座席六列の鉄骨骨組ガラス繊維強化プラスチック製のものであって、底面は細かい基盤の目状の凹凸をなすゴム張りになっており、その前方及び後方にはマストが立てられていて、その間にテントを張るようになっている。そして、各ボートは、三隻毎に連結器によって繋がれて一編成を形成し、花博覧会の開幕当初から本件事故発生時までは二三編成(合計六九隻)で運行されていて、これらの各編成は、順次一号ライド、二号ライド、三号ライド等と呼ばれていた。

水路は途中の三か所の上架部によって五つの水系に分割されて水が張られ、自動水位調整装置によって水位が一定に保たれるとともに、ミキサーポンプによって各水系毎に循環強制水流を発生させるようになっている。各水系の間には約3.5メートルないし6.85メートルの高低差があって、ベルトコンベア(水路コンベア)を設置した傾斜部分(合計八か所)がこれらを連結している。

「中央ゲート駅」及び「街の駅」の各出発ホーム及び到着ホームには、別紙図面2表示のとおり、各駅における乗客の乗降のためにボートを停止・発船させる目的で合計四基のベルトコンベア(ホームコンベア)が各駅の到着ホーム、出発ホームに沿って水平に設置されている。

2  運行方法

ボートは、それ自体には自走装置は設けられておらず、各水系においてはミキサーポンプが発生させる秒速約1.5メートルの循環強制水流によって毎秒約1.3メートルの速度で航進し、各水系を結ぶ傾斜部分においては水路コンベアによって毎秒約一メートルの速度で搬送されるようになっていて、「中央ゲート駅」から「街の駅」までの間(805.9メートル)の所要時間約一四分、「街の駅」から「中央ゲート駅」までの間(1086.6メートル)の所要時間約一六分となっている。

「街の駅」及び「中央ゲート駅」においては、ボートは、到着ホーム手前の水路を水流によって進み、到着ホームにさしかかると、到着ホーム前のホームコンベアによって前進し、所定の位置まで移動すると、自動的にホームコンベアが停止して、ボートも停止する。そこで、乗客が降船し、担当者は、乗客が降船したことを確認した後、操作盤の出発ボタンを押す。そうすると、到着ホーム前のホームコンベアが動き出してボートは前進し、到着ホームと出発ホームの間の水路を通って、出発ホームへと進む。ボートは、出発ホームにさしかかると、出発ホーム前のホームコンベアによって前進し、所定の位置まで移動すると、自動的にホームコンベアが停止して、ボートも停止する。そこで、乗客が乗船し、担当者は、乗客が乗船したことを確認し、出発表示ランプに従って標準的に約九〇秒の間隔を置いた後、操作盤の出発ボタンを押す。そうすると、出発ホーム前のホームコンベアが動き出してボートは前進し、水路に入ることになる。

3  運行管理機構

「中央ゲート駅」の駅舎一階には運営本部及び電気室(A制御室)が、二階にはメンテナンス室が、「街の駅」の駅舎一階には事務所及び電気室(B制御室)がそれぞれ設けられているほか、「街の駅」から「中央ゲート駅」へ向かう水路沿いには電気室(D制御室)が設けられている。

各駅舎の各ホームには、各ホーム前のホームコンベアに対応して合計四基の操作盤が設置され、操作盤にはそれぞれ出発ボタン、寸動ボタン、停止ボタン、非常停止ボタン、出発表示ランプ、故障表示ランプ、インターフォン等が設けられている。各ホーム前のホームコンベアは、全体のシステムとは連動せず、各駅舎の各ホームに設置された操作盤の操作によって起動、寸動又は停止させる。

「中央ゲート駅」の到着ホームの操作盤(主操作盤)には、他の三基の操作盤(副操作盤)と同様のホームコンベアの操作機能のほかに、本件ウォーターライド施設全体の動力を入れる営業運転開始ボタン及び本件ウォーターライド施設全体を停止する営業運転終了ボタンが設けられており、また、右主操作盤と一体となって、各水中ミキサーポンプ、各ベルトコンベア、各ボートストッパー等の作動状況や水路主要部の推移などが表示され、各部の異常を知らせる警報ブザーや警報ランプ類が設けられた監視盤が併置されていて、本件ウォーターライド施設全体の状況が把握できるようになっている。

主操作盤及び副操作盤の非常停止ボタンは、当該ホーム前のホームコンベアのみを停止させるものであって、本件ウォーターライド施設全体の起動・停止は、主操作盤の営業運転終了ボタンを押すことによってのみ可能である。

また、水路コンベアについては、蛇行感知センサー、逆走防止装置等が設置され、一か所の水路コンベアが故障した場合には本件ウォーターライド施設全体が自動的に停止するシステムになっているが、ホームコンベアについては、他のホームコンベア又は本件ウォーターライド施設全体と連動するシステムにはなっていない。

このように、主操作盤と監視盤の前には本件ウォーターライド施設全体の運行管理者が常駐して、監視盤や他のホームの担当者との間のインターフォンによる通話により情報を得て、本件ウォーターライド施設全体の起動・停止を一元的に管理するものとなっている。

(本項につき、甲第二八号証、甲第二九号証、甲第三二号証ないし甲第三四号証、甲第四〇号証、証人八木順一の証言及び弁論の全趣旨)

三  本件ウォーターライド施設をめぐる契約関係

1  広告代理店業等を営む原告の担当者と輸送機・遊戯機の製造・販売業等を営む被告の担当者は、昭和六一年八月頃以降、出展者(事業者)は未定のままで、花博覧会の会場において水路に浮遊させたボートによって入場者を遊覧させるという事業を構想して協議を重ね、花博協会とも折衝を行った上で、被告において、自ら又は下請会社に委託して本件ウォーターライド施設の基本構想、基本計画、基本設計、詳細設計、構造計算書等を作成し又は試作・実験を行うなどして順次これを具体化し、また、昭和六三年八月頃にはジャスコが本件ウォーターライド施設の出展者(事業者)となることを内定した。

(本項につき甲第二五号証、甲第二六号証、甲第二八号証、甲第九三号証ないし甲第九七号証、乙第一三号証、乙第九九号証並びに証人八木順一及び同野瀬敏晃の各証言)

2  また、原告は、本件ウォーターライド施設の施工工事、その他の業務を被告に請け負わせ又は委託することにして、代金額等について被告と協議を重ねた上、平成元年二月一一日頃、被告との間で、本件ウォーターライド施設のうち基礎工事、各駅舎、展示ドーム等を除いた運行関連設備部分の工事の施工の請負代金額及びその他の業務の委託代金額を合計一六億三七〇〇万円とすることに合意し、被告は、これを受けて、その頃以降、下請会社数社に対して、本件ウォーターライド施設のうちの右運行関連設備部分の工事の施工等を請け負わせた(甲第二五号証、甲第三三号証、甲第三四号証、甲第九六号証ないし甲第九九号証及び証人野瀬敏晃の証言)。

そして、原告と被告は、本件ウォーターライド施設についての実施設計図書等の作成が概ね完了した同年九月一日に至って、原告が「提出済みの実施設計図書に基づく本件ウォーターライド施設(前記基礎工事、各駅舎、展示ドーム等を除く。)の工事の施工」、「花博覧会開催期間中における右施設の保守・点検業務」、「原告の従業員その他の運行関係者に対する慣熟訓練の指導」及び「花博覧会終了後の右施設の撤去工事の施工」を代金一六億三七〇〇万円で被告に請け負わせ又は委託するものとする契約書を作成して調印した(甲第一〇号証)。

3  他方、原告及び本件ウォーターライド施設の事業者としてのジャスコは、平成二年二月二四日、ジャスコが本件ウォーターライド施設全体の企画・立案及び推進(いわゆるプロデュース業務)、基礎工事、各駅舎、展示ドーム等を含めた本件ウォーターライド施設全体の工事の施工、保守・管理及び花博覧会終了後の撤去工事の施工、ボート運行実施計画の立案、コンパニオンによる案内・誘導・接遇業務に関する運営実施計画の作成、運営及びその実施を原告に請け負わせ又は委託するものとする契約書を作成して調印した(甲第一一号証)。また、ジャスコは、平成二年三月一日、関西マネジ興業株式会社(以下「関西マネジ」という。)との間において、本件ウォーターライド施設の中心をなすボートの運行及び管理の業務を関西マネジに委託するものとする契約を締結した(甲第一一七号証(乙第一五号証))。

そして、原告は、被告との間において前記のとおり本件ウォーターライド施設の工事の施工、点検・保守業務、慣熟訓練の指導、施設の撤去工事の施工等についての契約書を作成して調印したほか、本件ウォーターライド施設のうち基礎工事、各駅舎、展示ドーム等の施工工事を他社に請け負わせる契約を締結し、また、平成元年一一月一日、株式会社フラッシュ(以下「フラッシュ」という。)との間において、本件ウォーターライド施設におけるコンパニオンによる案内・誘導・接遇業務(コンパニオン業務)をフラッシュに委託する旨の契約を締結した(甲第五一号証ないし甲第五六号証、甲第九九号証、乙第四四号証、乙第一二一号証)。

(右1ないし3項の契約関係等につき、別紙「契約状況一覧表」参照)

4  このようにして、本件ウォーターライド施設は、平成二年二月下旬頃に施工を完了し、同年三月二六日頃に被告その他の請負会社から原告に、原告からジャスコに、それぞれ検収を経て引き渡された。

そして、ジャスコは、本件ウォーターライド施設の運営本部を設置して、その総館長にジャスコ従業員の奥山和(以下「奥山」という。)を、運行安全管理部長に同じく田中信夫(以下「田中」という。)をそれぞれ充て、原告従業員の野瀬敏晃(以下「野瀬」という。)、津吉良政(以下「津吉」という。)らがこれを補佐する職務を担当した。また、本件ウォーターライド施設の中心をなすライドの運行及び管理には、その業務の委託を受けた関西マネジの従業員小島資郎(以下「小島」という。)を責任者とするアルバイトを主体とする同社の従業員らがこれに当たった。

また、被告は、その子会社である株式会社サンエース(以下「サンエース」という。)の従業員斉藤五郎(以下「斉藤」という。)を本件ウォーターライド施設の保守管理の責任者としたほか、本件ウォーターライド施設の右運行関連設備部分の工事の施工等を請け負った下請会社の従業員をそれぞれの部門の保守管理要員とした。

5  このようにして、本件ウォーターライド施設は、花博覧会の開幕日である平成二年四月一日から運行を開始した。

四  本件事故の発生と本件ウォーターライド施設の運行休業

1  本件事故の発生

ところが、花博覧会開幕二日目である平成二年四月二日午後〇時五分頃、「街の駅」の出発ホームにおいては、一九号ライドが停止しており、乗客が乗船していた。出発ホームの担当者は、乗客が乗船した後、一九号ライドを発進させるために操作盤の出発ボタンを操作したが、ホーム前のホームコンベアが起動せず、一九号ライドは出発できないままとなった。

ところが、水中ミキサーポンプ及び水路コンベアは駆動し続けていたために、そのようにするうちに、「街の駅」の出発ホーム前から同駅の到着ホーム前を経て同駅の手前に設置された傾斜部の水路コンベア(別紙図面3表示のC4コンベア)の降り口までの約一四〇メートルの間には、一九号ライドを先頭として合計九台のライド(一九ないし二三号及び一ないし四号の各ライド)が数珠つなぎ状に滞留することとなった。そのような状態のところへ、後続の五号ライドがC4コンベアによって運ばれてきて四号ライドに接触し、その結果、五号ライドの一隻目は水路上にあり、二隻目及び三隻目はC4コンベア上にあってその表面を滑っている状態となり、さらに、後続の六号ライドがC4コンベアで運ばれてきて五号ライドに接触し、これにより四号ライドの三隻目のボートと五号ライドの一隻目のボートの接触部が競り上がることになった。

そして、四号ライドの三隻目は、午後〇時一五分頃、水路側壁を乗り越えて、隣の水路側に横転し、五号ライドの一隻目は鉄橋のトラス構造の隙間から七メートル下の道路上に転落し、同ライドの二隻目も後ろからの推力と落下した一隻目に引きずられて転落し宙吊りとなった。これにより、五号ライドの一隻目及び二隻目に乗船していた乗客は、高架水路から約七メートル下の地面に落下し、また、四号ライドの三隻目に乗船していた乗客は、隣の水路に投げ出され、その結果、二一名以上の乗客が重軽傷を負った。

2  本件ウォーターライド施設の運行休業

花博協会は、本件事故の発生後、事故原因が究明されて安全が確認されるまでの間は本件ウォーターライド施設の運行を停止する旨を決め、ジャスコに対して、その旨を指示した。

そこで、ジャスコは、原告、被告らと本件ウォーターライド施設の安全を確保するための協議等を重ねた後、平成二年五月二三日頃、花博協会に対して、「ウォーターライド運行のための安全強化対策」と題する報告書を提出したが、花博協会は、右報告書及びそれによって提案された安全対策等を検討し、同年六月二〇日、右安全対策等を講じた上で本件ウォーターライド施設の運行を再開することを了承した。

このようにして、その後、安全対策工事の施工、試運転及び従業員等の訓練が実施された後、同年七月一二日から本件ウォーターライド施設の運行が再開された。

3  ジャスコと原告との間の和解契約の締結

原告は、平成三年一月二二日、ジャスコとの間において、ジャスコが本件事故に基づく本件ウォーターライド施設の運行休業によって被った逸失利益の賠償として一九億一三九三万九一三〇円の損害賠償金をジャスコに支払う旨を約し、同月三〇日に内金九億五六九六万九五六五円を、同年七月三〇日に残金をそれぞれジャスコに支払った(甲第二〇号証、甲第一三九号証の一及び二及び証人木下裕晴の証言)。

第三  争点

(原告の主張)

一  本件ウォーターライド施設の瑕疵

1 本件ウォーターライド施設は、不特定・多数の乗客が利用する輸送施設であり、このような不特定・多数の乗客が利用する輸送施設にあって、専ら人的な安全装置のみに依存したのでは、人的な過誤を避け難いところであるから、先ず物的安全装置をもって安全を確保すべきであり、しかも、その安全装置は二重三重であることが必要であって、このような施設の設計者ないし施工者は、これを設計し製作し設置するに当たっては、乗客の生命、身体を害しないよう二重、三重に安全措置を講じるべき義務がある。

これを具体的にみると、被告は、本件ウォーターライド施設の設計ないし施工に当たっては、(一) ホーム前のホームコンベアが電気的故障、機械的故障等の何らかの理由によって一定時間(五分間)以上停止した場合には、水路コンベアが自動的に停止するような装置を設置する、(二) 右自動停止装置が作動しない場合に備えて、水路コンベアを人為的に非常停止させるボタンを各ライド及び水路周辺に設置する、(三) 前記自動停止装置が作動しない場合に備えて、水路コンベアの出口部に追突を防止する機能を有する装置を設置する、(四) ホームコンベアの故障の発見者等と停止ボタンを操作する者との連絡等がスムーズに行かない場合に備えて、「街の駅」のホームにも、水路コンベアを停止させる機能を持つ副操作盤を設置する、(五) 物的な安全装置が作動しない場合及び人的な過誤があった場合に備えて、ボート及び水路の構造をボートが競り上がって水路から転落しないようなものにする、などの措置を講じるべきであった。

2 ところが、被告が設計し製作し設置した本件ウォーターライド施設には、これらの安全措置が全く講じられておらず、ホームコンベアが電気的故障、機械的故障等の何らかの理由によって一定時間以上停止した場合には、「中央ゲート駅」の到着ホームの主操作盤の操作者が営業運転終了ボタンを操作して本件ウォーターライド施設全体を停止しない限り、必然的に本件事故のような事故が発生することになるようなものであった。

本件ウォーターライド施設は、建築基準法八八条一項、同法施行令一三八条二項二号にいわゆる「ウォーターシュート、コースターその他これらに類する高架の遊戯施設」に該当するものであるところ、同令一四四条四号所定の「軌条又は索条を用いるものにあっては、客席部分が当該軌条又は索条から外れるおそれのない構造とすること」及び同令一四四条七号所定の「動力が切れた場合、駆動装置に故障が生じた場合その他客席に居る人が危害を受けるおそれのある事故が発生し、又は発生するおそれのある場合に自動的に作動する非常止め装置を設けること」との基準に適合しないものであって、現在の輸送施設の安全システムの水準に達していないばかりか、これらの建築基準法令にも違反するものである。

したがって、本件ウォーターライド施設は、それ自体として、瑕疵があったものである。

二  被告の説明・警告義務違反

1 被告は、本件ウォーターライド施設の設計者又は施工者として、ホーム前のホームコンベアが電気的故障、機械的故障等の何らかの理由によって一定時間以上停止した場合には、「中央ゲート駅」の到着ホームの主操作盤の操作者が営業運転終了ボタンを操作して本件ウォーターライド施設全体を停止しない限り、必然的に本件事故のような事故が発生する危険があることを容易に予見することができたばかりか、これを熟知していたものである。

したがって、被告は、本件ウォーターライド施設の設計者又は施工者として、原告及びジャスコに対して、本件ウォーターライド施設の使用方法を説明し、所定の措置を怠ったときには本件事故のような事故が発生することを警告して、原告及びジャスコが本件ウォーターライド施設の適切な運行管理体制や運行ルールを確立し実施することができるようにすべき契約上及び条理上の義務を負うものである。

2 ところが、被告は、原告及びジャスコに対して、本件ウォーターライド施設の持つ右のような危険性を説明したり、所定の措置を怠れば本件事故のような事故が発生することを警告したようなことはないばかりか、かえって、右の危険性を秘匿して、原告及びジャスコに対して、殊更に本件ウォーターライド施設が極めて安全な施設であることを強調し続けていたものである。

三  被告の責任原因

1 瑕疵担保責任又は債務不履行責任

原告と被告は、前記のとおり代金額について合意した平成元年二月一一日頃又は契約書を作成して調印した同年九月一日に、原告を注文者、被告を請負人(供給者)として、本件ウォーターライド施設(基礎工事、各駅舎、展示ドーム等を除いた運行関連設備部分)の施工工事の請負契約又は製造物供給契約を締結したものである。

そして、右請負契約又は製造物供給契約の目的物である本件ウォーターライド施設には前記のような瑕疵があったものであり、また、被告は、右契約の付随的な義務である前記のような説明・警告義務を尽くすことを怠ったのであって、その結果として本件事故が発生したのであるから、原告に対して、瑕疵担保責任(民法六四三条、五七〇条)又は債務不履行責任(民法四一五条)として、原告が本件事故によって被った後記の損害を賠償すべき責任がある。

2 使用者責任

また、被告(担当者)は、本件ウォーターライド施設の設計者又は施工者として、ホーム前のホームコンベアが電気的故障、機械的故障等の何らかの理由によって一定時間以上停止した場合には、「中央ゲート駅」の到着ホームの主操作盤の操作者が営業運転終了ボタンを操作して本件ウォーターライド施設全体を停止しない限り、必然的に本件事故のような事故が発生する危険があることを容易に予見することができたばかりか、これを熟知していたものであるにもかかわらず、設計者又は施工者としての注意義務に違背して、前記のような瑕疵のある本件ウォーターライド施設を設計して施工し、あるいは、原告及びジャスコに対して、前記のような条理上の説明・警告義務を尽くすことを怠ったのであって、その結果として本件事故が発生したのであるから、原告に対して、使用者責任(民法七一五条)として、原告が本件事故によって被った後記の損害を賠償すべき責任がある。

3 共同不法行為者間の求償請求

原告と被告は、ジャスコが本件事故に基づく本件ウォーターライド施設の運行休業によって得べかりし利益を失って損害を被ったことにつき、ともに共同不法行為者となるものと解されるところ、原告は、ジャスコとの間において和解契約を締結して、ジャスコに対して損害賠償金を支払い、これによって被告は責任を免れたのであるから、被告は、共同不法行為者間の求償義務の履行として、原告に対して、原告がジャスコに支払った損害賠償金と同額の求償金を支払うべき義務がある。

4 結論

よって、原告は、右各責任原因のいずれかに基づいて、被告に対して、損害賠償金又は求償金の支払いを求める。

四  原告の損害又は求償金

1 ジャスコは、平成二年四月三日から同年七月一一日までの間、本件ウォーターライド施設の運行の休業を余儀なくされた結果、別紙1記載のとおり、合計一八億〇六〇七万四一五二円の得べかりし乗船料収入を喪失し、他方、右の間本件ウォーターライド施設の運行を休業したことにより、別紙2記載のとおり、特高受電用電気料金、上水道料金及び工業用水料金の合計二三六一万五七三四円の支出を免れ、結局、本件事故によって、少なくとも一七億八二四五万八四一八円の損害を被った。

原告は、ジャスコとの間の本件ウォーターライド施設の施工工事の前記請負契約に基づく瑕疵担保責任若しくは債務不履行責任又は使用者責任として、ジャスコに対して、右同額の損害賠償金を支払う義務を負った。

2 そして、原告は、前記のとおり、平成三年一月二二日、ジャスコとの間において、一九億一三九三万九一三〇円の損害賠償金をジャスコに支払う旨を約した上、同月三〇日に内金九億五六九六万九五六五円を、同年七月三〇日に残金をそれぞれジャスコに支払った。

3 したがって、原告は、本件事故によって、少なくとも前記の一七億八二四五万八四一八円及び本訴の提起、追行に要する弁護士費用一億一〇六三万七五〇四円の合計一八億九三〇九万五九二二円の損害を被ったものであり、また、被告に対して、右と同額の求償金債権を取得したものである。

(被告の主張)

一  本件ウォーターライド施設の瑕疵について

1 本件ウォーターライド施設は、単に花博覧会会場内の輸送施設であるばかりでなく、乗客が会場の景観や途中五か所に設けられた展示ドームにおける各種のアドベンチャー体験をすることができる遊戯施設であって、毎秒約一メートルないし約1.3メートルという大人の通常の歩行速度程度の緩徐な運行速度で進行するものであり、また、各ライド間には平均約一〇〇メートルの間隔が存在するものである。

そして、本件ウォーターライド施設のシステムにおいては、出発ホームの担当者が操作盤の出発ボタンを操作してもホーム前のホームコンベアが起動しないときには、操作盤の故障表示ランプが点灯して警報ブザーが吹鳴し、この場合においては、操作盤の操作担当者は、各駅一階の電気室(制御室)に降りて制御盤のリセットボタンを操作することによって故障の回復を試み、それによっても故障が回復しないときは、制御盤に設けられたインターフォンを用いて「中央ゲート駅」の到着ホームの主操作盤の担当者に連絡し、右主操作盤の担当者は、営業運転終了ボタンを操作して本件ウォーターライド施設全体の運行を停止することになっているのであり、右の一連の手順に要する時間は、約二分三〇秒ないし最大四分弱に過ぎない。

本件ウォーターライド施設にあっては、各ホーム前のホームコンベアは、乗客の乗降船を確認しつつ発船間隔を一定に保って運転する必要があるために手動操作によらざるを得ず、しかも、場合によっては非常停止措置をとる必要があるために、ホームコンベアと自動的に継続運転している水路コンベアやミキサーポンプとの制御系統を別個として、ホームコンベアの故障発生時にシステム全体が自動的に停止する機構とはせず、責任の所在を明確にして運行管理を一元化するために、本件ウォーターライド施設全体を停止する装置は、「中央ゲート駅」の到着ホームの主操作盤一か所にのみ設置することにしたものである。

したがって、本件ウォーターライド施設のような遊戯施設の一般的な運行管理者の持つべき技能水準と注意能力をもってすれば、ホームコンベアが電気的故障、機械的故障等の何らかの理由によって一定時間以上停止した場合にも、時間的な余裕をもって対応することができるのであり、本件ウォーターライド施設の安全装置は、我が国におけるこの種の施設の一般的な水準に照らしても、なんら遜色のないものであって、そこになんらかの瑕疵があるものということはできない。

2 原告は、本件ウォーターライド施設のような不特定・多数の乗客が利用する施設にあっては、先ず二重、三重の物的な安全装置をもって安全を確保すべきであると主張するけれども、この種の施設における安全装置は、単に物的な設備面だけではなく、運行管理面での人的措置とが相俟ってその完全が期せられるべきものであって、そのような施設の瑕疵の存否も、運行管理者が通常の技能水準と注意能力を有することを前提として、当該システムが運行管理者の分担すべきものとして予定した運行管理面での安全対策に実施の困難なものがなかったかどうか、あるいは、当該システムが運行管理者の通常陥る可能性のある運行管理上の過誤を織り込んだものとなっているかどうかという観点から判断されるべきものである。

また、原告は、本件ウォーターライド施設の設計ないし施工に当たっては、各種の物的安全装置をもって安全を確保すべきであると主張するけれども、先ず、原告の主張する水路コンベアの自動停止装置や追突防止装置は、人為的な措置によっては対処しきれないような緊急事態への対応等のために設置すべきものであって、本件ウォーターライド施設におけるように、事故発生の危険性が高まるまでに一定時間の経過が見込まれる場合にまでこれを設置する必要性はない。各ライド又は水路周辺に水路コンベアを人為的に非常停止させる装置を設置することについては、各ライドに乗船しているコンパニオンは、トランシーバーを携帯して緊急時の連絡をすることが可能なのであるから、随所に右のような装置を設ける必要はなく、かえって、各ライドに設置された非常停止ボタンの操作のワイヤレス無線による交信が電波障害による誤作動をもたらす危険性等を随伴するなどして、必ずしも現実的ではない。また、「街の駅」のホームにも、水路コンベアを停止させる機能を持つ副操作盤を設置した場合には、かえって指揮命令系統や運行管理の一元化を害することになって、本件ウォーターライド施設全体を停止しなければならない事態が発生した場合、互いに他の担当者が本件ウォーターライド施設全体を停止させるであろうとの依頼心から混乱が生じるおそれがある。さらに、ボート又は水路を競り上がりによる転落を防止する構造のものとし又はそのような装置を設置することについては、本件ウォーターライド施設の水路には、平面的なカーブがあるほか、水路コンベアの乗り口及び降り口に縦方向の屈曲部分があったり、また、乗客数によってボートの吃水線が異なることになるところから、右のような構造又は装置の設置がボートの円滑な進行を阻害したり、乗客がボートと右の装置との間に手指等を挟まれる等の事故が生じる危険性がある。このように、原告が主張する各種の物的安全装置は、その必要性がないか又はかえって別個の危険性を伴うものであって、これを本件ウォーターライド施設に採用する余地のないものである。

そして、本件ウォーターライド施設のシステムないし安全装置は、前記のような設計思想に立って、適切な運行マニュアルの策定及び運行に関する人的組織体制の確立などの運行管理面での人的措置によって補完されることをはじめから予定しているものであって、前記のとおり、これによって容易に不測の事態に対処することができるものであった。

3 被告は、後記のとおり、原告及び本件ウォーターライド施設の事業者であるジャスコに対して、本件ウォーターライド施設についての説明・警告義務を十分に尽くし、また、原告及びジャスコは、右のような設計思想の上に立って本件ウォーターライド施設の運行マニュアルを策定し、前記のとおり、ジャスコの従業員奥山を運営本部の総館長、同田中を運行安全管理部長、原告従業員の野瀬及び津吉をその補佐者とし、関西マネジの従業員小島を責任者とするアルバイトを主体とする同社の従業員をライドの運行及び管理に当たらせることとして、本件ウォーターライド施設の運行に関する人的組織体制を確立していたものである。そして、運行マニュアルによれば、ホームコンベアに故障が生じた場合には、現場から運営本部に連絡がなされ、運営本部がメンテナンス係員に対してメンテナンスの要請をするとともに総館長に報告をし、総館長が運行停止措置の指揮をするものとされていた。

ところが、本件事故は、運営本部には数名の人員が待機しており、警報ブザーが正常に作動しており、ホームコンベアの故障の事実も現場から迅速に連絡され、また、運営本部内のモニターテレビによって、各駅の状況はもとより、本件事故現場付近の水路の状況まで監視・確認することも容易な状況にあって、現に数名の関係者が事故の危険を感知し、奥山に対して運行の停止を進言していたにもかかわらず、奥山は、これを無視して運行停止措置を執らず、主操作盤の担当者であった小島も、ボートが滞留することによって生じる危険性を認識しつつも、運営本部に本件ウォーターライド施設の運行停止を促す等の措置を執ることなく、さらに、関西マネジが慣熟訓練を受けていない者を操作盤の操作担当者に配置するなどしていたこともあって、右担当者がリセットボタンを押すなど適宜の措置を執らず、結局、ベルトコンベアが停止した後、約一〇分間にわたって本件ウォーターライド施設の運行を継続したことによって、約一四〇メートルの水路に一〇編成のライドを数珠つなぎ状に滞留させ、なおも運行停止の措置を執らなかったことによって発生したものである。

本件ウォーターライド施設の設計者としては、右のような異常な運行業務ないし事態までを想定してシステムを構築しなければならない義務はないものというべきであり、また、被告は、本件ウォーターライド施設の設計者及び施工者として、当時、右のような異常な運行業務ないし事態を予見することはおよそ不可能であったものである。

4 以上のとおりであるから、本件ウォーターライド施設には、なんらの瑕疵もなかったものというべきである。

二  被告の説明・警告義務違反について

1 被告は、本件ウォーターライド施設の設計の過程において、原告に対して、本件ウォーターライド施設の構造計算書、機械・電気に関する設計図書を交付し、平成元年一一月及び一二月頃、原告及びジャスコに対して、本件ウォーターライド施設の操作手順を示した「始業前試運転手順」、「終業時機器停止手順」、「プラットホームコンベア営業運転要領」及び「電気設備要領」を交付した。

また、被告は、平成二年三月一日から同月二三日までの間及び同月二四日、原告から委託を受けた慣熟訓練を実施し、そこにおいては、本件ウォーターライド施設の機械設備の設計に当たった被告の従業員枇杷木普一(以下「枇杷木」という。)及び八木原博幸(以下「八木原」という。)並びに被告から本件ウォーターライド施設の電気設備等の設計及び施工を請け負った株式会社大同電機製作所の子会社であるダイナック株式会社の取締役今村紀(以下「今村」という。)は、原告が慣熟訓練への参加者として指定した関西マネジの従業員に対して、本件ウォーターライド施設の構造、運転要領等の説明及び運転操作の実地訓練の実施に際して、他の故障時の対応方法とともに、ホームコンベアが故障した時においては、「中央ゲート駅」の到着ホームの主操作盤の担当者に故障の事実を知らせた上で、各駅一階の電気室(制御室)の制御盤で故障原因を確認して、右制御盤のリセットボタンを操作することによって故障の回復を試み、それによっても故障が回復しないときは、主操作盤の担当者は、営業運転終了ボタンを操作して本件ウォーターライド施設全体の運行を停止すべきこと、ホームコンベアと水路コンベアとは別個の制御系統に属しているので、ホームコンベアが故障して直ちに復旧しない場合には、主操作盤の担当者は、速やかに運営本部に報告して、指示を受けるべきこと、本件事故現場付近のような到着ホーム手前の水路にボートを滞留させると、ボート同士の追突や接触を招き、危険であることなどを十分に説明した。

2 そして、ジャスコは、本来、本件ウォーターライド施設の事業者として、本件ウォーターライド施設の運行マニュアルの策定や運行に関する人的組織体制の確立を図り、運行業務の担当者に対する講習・技能訓練の実施等を通じてその運営体制を樹立すべき義務を負い、また、本件ウォーターライド施設の運行管理者として、本件ウォーターライド施設の運行に関する十分な知識・技能を修得することが期待されていたものであり、原告も、ジャスコの補助者として、これらと同様の役割が期待されていたものである。

被告は、右のとおり、このような立場にあるジャスコ及び原告又はその指定した運行担当者に対して、本件ウォーターライド施設についての前記のような資料の提供、慣熟訓練の実施等を行って、本件ウォーターライド施設の運行マニュアルの策定等に必要なすべての情報を提供していたものであり、原告及びジャスコは、これに基づいて、運行マニュアルを作成し、そこでは、ホームコンベアの故障時における対応策としても、慣熟訓練に際して被告従業員等がした前記のような説明に適った記載がなされていたものである。

3 したがって、被告には、本件ウォーターライド施設の設計者ないし施工者として、なんらの説明義務ないし警告義務の違反はない。

三  被告の責任原因について

原告と被告は、被告において、本件ウォーターライド施設の設計を行って、その設計図書等を原告に交付するなどし、原告においては、右設計図書等を検討した上で、これを承認して、代金額について合意した平成元年二月一一日頃又は契約書を作成して調印した同年九月一日に、原告を注文者、被告を請負人として、本件ウォーターライド施設(基礎工事、各駅舎、展示ドーム等を除いた運行関連設備部分)の施工工事の請負契約を締結したものである。

したがって、本件ウォーターライド施設の設計そのものは契約の目的とはなっておらず、原告は右設計図書等を承認した上でこれに基づく本件ウォーターライド施設の施工工事のみを被告に請け負わせたのであるから、被告は、原告に対して、本件ウォーターライド施設の設計についての契約上の責任を負うべき理由はない。

四  原告の損害又は求償金について

1 本件事故は、前記のとおり、運営本部に数名の人員が待機しており、警報ブザーが正常に作動していて、ホームコンベアの故障の事実も現場から迅速に連絡され、また、運営本部内のモニターテレビによって、本件事故現場付近の水路の状況まで監視・確認することも容易な状況にあって、現に数名の関係者が事故の危険を感知し、奥山に対して運行の停止を進言していたにもかかわらず、奥山が、これを無視して運行停止措置を執らず、主操作盤の担当者であった小島も、ボートが滞留することによって生じる危険性を認識しつつも、運営本部に本件ウォーターライド施設の運行停止を促す等の措置を執ることなく、さらに、関西マネジが慣熟訓練を受けていない者を操作盤の操作担当者に配置するなどしていたこともあって、右担当者がリセットボタンが押すなど適宜の措置を執らず、結局、ベルトコンベアが停止した後、約一〇分間にわたって本件ウォーターライド施設の運行を継続したことによって、約一四〇メートルの水路に一〇編成のライドを数珠つなぎ状に滞留させ、なおも運行停止の措置を執らなかったことによって発生したものであり、原告、ジャスコ及び関西マネジの従業員の重大な過失に起因するものである。

そして、原告は、ジャスコが本件ウォーターライド施設の運行の休業によって被った損害のうち、ジャスコ及びその履行補助者としての関西マネジの従業員の過失割合に相当する負担部分をジャスコに賠償すべき責任はなく、また、被告は、原告が被った損害又は出捐のうち、原告の従業員の過失割合に相当する負担部分を原告に賠償し又はその求償に応じるべき責任はない。

したがって、原告の本訴請求のうち、ジャスコ、関西マネジ及び原告の従業員の過失割合に相当する負担部分については、相当因果関係、過失相殺又は共同不法行為者間の求償請求の法理の適用により、被告は、原告に対して、これを賠償し又はその求償に応じるべき責任はない。

2 さらに、ジャスコは、本件ウォーターライド施設の運行の休業によって、合計三一四万四九一八円の賃金等の人件費の支払いを免れ、また、本件事故後においては関西マネジとの間のボートの運行及び管理の業務の委託契約を解約して、これによって関西マネジに対する合計五一九六万円の委託代金の支払いを免れたのであるから、ジャスコが本件事故によって支払いを免れたこれらの合計五五一〇万四九一八円については、損益相殺の法理の適用によって、ジャスコ、ひいては原告が本件事故によって被った損害の額から控除されるべきである。

第四  争点に対する判断

一  本件ウォーターライド施設の設計者・施工者としての被告の責任

1  先にみた本件ウォーターライド施設の概要及び甲第九号証によれば、本件ウォーターライド施設は、約一四〇ヘクタールに及ぶ花博覧会会場において、幅員約2.4メートル、水深約0.5メートル、地上約二メートルないし約七メートルの高架水路を全長約二〇〇〇メートルにわたって敷設して、そこに花博覧会の入場者を乗船させた三隻の大型ボートを連結して一編成とした合計二三編成のライドを浮遊させ、ミキサーポンプによって発生させた循環強制水流と水路間の一部に設置されたベルトコンベアによって、約三一分で右の水路を一巡するようにしたものであって、これにより入場者に会場内を回遊させることによって、入場者に水路途中に設けられた「水の神秘アドベンチャー」、「海上アドベンチャー」、「虹のアーチ」、「海底アドベンチャー」及び「氷窟アドベンチャー」などの展示ドームにおける各種の演出並びに水路付近に設けられた各パビリオンでの催し事、会場の景観などを楽しませるとともに、会場内における主力輸送施設とすることを目的としたものである。

本件ウォーターライド施設のこれらの構造、機能及び目的に照すと、本件ウォーターライド施設は、全体として、建築基準法八八条一項、同法施行令一三八条二項二号にいわゆる「ウォーターシュート、コースターその他これらに類する高架の遊戯施設」に該当するものということができる。

2  そして、本件ウォーターライド施設のような高架の遊戯施設の設計者ないし施工者としては、当該施設を建築基準法令の定める基準に適合させるべき義務を負うことはもとより、当該施設が事業者によって不特定・多数の乗客等の利用に供されるものであるという特性に鑑み、当該施設の本来の運行管理体制ないし運行ルール及び合理的に予見することができる運行管理上の過誤を前提として、当該施設が通常有すべき安全性を具備したものとするべき契約上又は条理上の義務を負うものであり、また、当該施設の持つ危険性についての説明・警告を行うことによって、事業者が当該施設の適切な運行管理体制ないし運行ルールを確立して、合理的に予見することができる運行管理上の過誤を招来しないようにすべき契約上の付随的義務又は条理上の義務を負うものというべきであって、設計者ないし施工者がこれらの義務の履行を怠り、その結果として相手方が損害を被ったときは、設計者ないし施工者は、契約上の瑕疵担保責任又は不法行為責任として、相手方の被った右損害を賠償すべき責任があるものと解するのが相当である。

3  被告は、この点について、本件ウォーターライド施設の設計そのものは原、被告間の契約の目的とはなっておらず、原告は被告が作成した本件ウォーターライド施設の設計図書等を承認した上でこれに基づく本件ウォーターライド施設の施工工事のみを被告に請け負わせたのであるから、被告は、原告に対して、本件ウォーターライド施設の設計上の瑕疵についての契約上の責任を負うべき理由はないと主張し、確かに、甲第二五号証、甲第二八号証、甲第九三号証ないし甲第九七号証、甲第九九号証、甲第一三〇号証、甲第一三二号証、乙第一三号証、乙第一七号証、乙第一九号証、乙第一二〇号証、乙第一二四号証並びに証人八木順一及び同野瀬敏晃の各証言によれば、原告及び被告は、昭和六一年八月頃以降、商談として花博覧会の会場において水路に浮遊させたボートによって入場者を遊覧させるという事業を構想して協議を重ね、花博協会とも折衝を行った上、未だ花博覧会への事業の出展者も定まらず、また、関係者の間においてなんらの契約関係も設定されないままに、遊戯機械等の設計及び施工に実績のある被告において、自ら又は下請会社に委託して本件ウォーターライド施設の基本計画や設計図書を作成するなどしたこと、その後ジャスコが本件ウォーターライド施設の事業者として確定した後においても、原、被告間においては、請負人としての被告の受注業務の範囲や請負代金額をめぐっての紛議が生じ、平成元年二月一一日頃に至って漸くその決着をみて、原、被告間において契約書が作成され調印された同年九月一日の時点においては、被告においては既に本件ウォーターライド施設についての実施設計図書等の作成を概ね完了していたものであること、被告は、この間、原告が被告に対する施工工事の注文者となることを予定して、これらの設計図書等を順次原告に交付した上で、その承認を得ていたものであること、そうであるが故に、同年九月一日に調印された契約書においては、請負人としての被告の受注業務の範囲として、単に「提出済みの実施設計図書に基づく本件ウォーターライド施設(基礎工事、各駅舎、展示ドーム等を除く。)の工事の施工」とされ、本件ウォーターライド施設の設計業務は原告の受注業務の範囲に含められなかったものであることの各事実を認めることができる。

しかしながら、被告は、右にみたとおり、第三者が作成した設計図書に基づく工事の施工を請け負ったというものではなく、自らが作成した設計図書に基づく本件ウォーターライド施設の工事の施工を請け負ったものであり、また、原告が本件ウォーターライド施設の設計図書を承認したといっても、単に注文者ないし施主としてこれらの設計図書を了解したというにとどまるものであるか、又は、たかだか被告が設計図書の作成過程において原告の希望をも容れて設計図書を作成したという程度のものに過ぎないものであることが明らかであって、被告が遊戯機械等の設計及び施工に実績のある会社であることなどの事実に鑑みると、これらの事実のみをもってしては、本件ウォーターライド施設の設計ないし施工が原告の指図(民法六三六条参照)によってなされたものということはできないし、他には本件ウォーターライド施設の設計ないし施工が原告の指図に基づくものであること又はこれを肯認すべき事情を認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件ウォーターライド施設の施工工事上の瑕疵があった場合においてはもとより、その設計上の瑕疵があった場合においても、被告は、これについての契約上の責任又は不法行為責任を免れるものではないというべきである。

二  本件事故の発生の経過と原因

先ず、本件事故の発生の経過と原因についてみると、先に掲げた基礎事実に関係証拠(認定事実の末尾に掲記)によれば、次のような事実を認めることができる。

1  本件事故当時における本件ウォーターライド施設の運行管理要員の配置状況についてみると、「中央ゲート駅」の一階の運営本部においては、総館長の奥山、運行安全管理部長の田中、原告従業員の新保章(以下「新保」という。)らが詰めており、また、同駅二階メンテナンス室には、斉藤が保守業務の責任者として待機していた。

「中央ゲート駅」の到着ホームにおいては、関西マネジの従業員の北村泰広(以下「北村」という。)が同ホームにおけるライドの発着操作を担当するとともに、たまたま一時的に席を外していた本来の主操作盤の操作者である小島に代わって主操作盤を担当しており、右小島は、同日午後〇時八分頃に持ち場に復帰した。また、「中央ゲート駅」の出発ホームにおいては、関西マネジの従業員の脇本宗樹(以下「脇本」という。)が同ホームにおけるライドの発着操作を担当していた。

さらに、「街の駅」の出発ホームにおいては、関西マネジの従業員の阿部元昭(以下「阿部」という。)が、同駅到着ホームにおいては同じく関西マネジの従業員の黒田恭司(以下「黒田」という。)が、それぞれ各ホームにおけるライドの発着操作を担当していた。

そして、「中央ゲート駅」と「街の駅」のほぼ中間に位置するD制御室には、被告が保守業務を委託していた株式会社鶴見製作所従業員の野田勝(以下「野田」という。)及び岩橋正博(以下「岩橋」という。)並びに開幕後も運行状況の確認のために暫時駐在していた被告の従業員の枇杷木及び八木原が居合せ、また、被告が電気関係の保守業務の委託をしていた大同電機の従業員である藤原衆一(以下「藤原」という。)は、従業員食堂で昼食を取っていた。

(本項につき、甲第二七号証、甲第三一号証、甲第三六号証(甲第八九号証)、甲第三八号証、甲第四九号証(甲第七六号証、乙第二六号証)、甲第六八号証、甲第七〇号証ないし甲第七二号証、甲第七五号証、甲第七七号証、甲第七九号証、甲第八〇号証、甲第八二号証、甲第八三号証(乙第九四号証)、甲第八四号証、甲第八六号証ないし甲第八八号証、甲第九〇号証、乙第三五号証ないし乙第三七号証、乙第三九号証、乙第四〇号証、乙第八〇号証、乙第八八号証並びに証人新保章、同小島資郎、同田中信夫及び同津吉良政の各証言)

2  「街の駅」の出発ホームの操作担当者であった阿部は、平成二年四月二日午後〇時五分頃、一九号ライドを発船させるために、操作盤の出発ボタンを押したが、ホームコンベアが起動せず、一九号ライドを発船させることができなかった。これと同時に、「中央ゲート駅」の主操作盤に併置された監視盤にも、B制御盤系統に異常が生じたことを示す警報ランプが点灯し、警報ブザーが吹鳴したため、主操作盤の担当者であった北村は、直ちにインターフォンを使用して、これを運営本部の新保に報告し、新保は、直ちにこれを田中に報告した。さらに、阿部は、寸動ボタンの操作を試みるなどした後、午後〇時六分頃、トランシーバーを使用して、北村に対して、「街の駅」の出発ホームのホームコンベアが起動しない旨を連絡した。

さらに、北村は、引き続き、インターフォンを使用して、メンテナンス室に右の異常を連絡し、また、新保は、内線電話で食事中の津吉に連絡を取って、右の事態をメンテナンス室に伝えるように連絡し、津吉は、直接メンテナンス室の斉藤にこれを伝えた。また、田中は、午後〇時八分頃、トランシーバーを使用して、主操作盤の担当者と交信して、前記警報ランプの点灯している事実を確認し、また、運営本部に戻った津吉から既にメンテナンス室にも連絡済みである旨の報告を受けた。

(本項につき、甲第六八号証、甲第七〇号証ないし甲第七二号証、甲第七五号証、甲第七七号証、甲第七八号証(乙第四二号証)、甲第七九号証、甲第八一号証、甲第八二号証、乙第三六号証、乙第三八号証、乙第三九号証、乙第四一号証、乙第八八号証並びに証人新保章、同田中信夫及び同津吉良政の各証言)

3  ホームコンベアの故障の連絡を受けたメンテナンス室の斉藤は、直ちに「中央ゲート駅」の三階の主操作盤に赴き、B制御盤系統の異常を知らせる警報ランプが点灯している事実を確認した後、インターフォンを使用してD制御室に連絡を取り、応対した八木原に対して、「街の駅」に向かうように指示するとともに、自らも「街の駅」に向かった。八木原は、斉藤からの連絡の内容をD制御室にいた野田、岩橋及び枇杷木に伝え、藤原を従業員食堂まで呼びに行き、藤原とともに「街の駅」に向かった。

このようにして、野田及び枇杷木は、「街の駅」に向かい、出発ホームの操作盤で故障ランプを確認し、「街の駅」の駅舎の一階のB制御室やコンベア機械室に出入りするなどしたが、格別の措置を採る暇もなく、同様に、岩橋も、出発ホームの操作盤を経てB制御室に赴き、リセットボタンを操作してみたものの、ブレーキ故障ランプは消えることなく、そのようにするうちに、本件事故が発生するに至った。

(本項につき、甲第三六号証(甲第八九号証)、甲第三八号証、甲第八三号証(乙第九四号証)、甲第八四号証、甲第八六号証ないし甲第八八号証、甲第九〇号証)

4  一方、運営本部においては、奥山、田中、新保及びジャスコの従業員の藤山修一(以下「藤山」という。)らは、前記のような経緯によって、「街の駅」の出発ホームのホームコンベアの故障の事実を知り、また、各駅の発着ホーム等に設置された監視カメラにより撮影された映像を映し出すモニターテレビの画面を監視することによって、「街の駅」の出発ホームでは客が乗船したままのライドが停止しているにもかかわらず、「中央ゲート駅」の出発ホームからは客を乗船させたライドが発船され続けていることを確認した。

そこで、新保、藤山及び田中は、相次いで、奥山に対して、本件ウォーターライド施設の運行を停止すべきではないかを進言したが、奥山は、乗船待ちをしている多数の入場者に対する対応策を優先して考え、また、「街の駅」に向かったメンテナンス要員によって故障が復旧されることに期待して、暫く様子を見ることとし、同日午後〇時一二分頃、「街の駅」の館長であるジャスコ従業員の石井宏明に対して、一九号ライドの乗客を降船させて誘導するよう指示したにとどまって、本件ウォーターライド施設の運行を停止する措置は採らないまま、乗船を待っている入場者の整理に当たるとして、運営本部を出て行った。

そして、運営本部に残った田中は、同日午後〇時一三、四分頃、ボートが衝突している旨の緊迫した無線交信の声を聞いて、その頃、トランシーバーを使用して、「中央ゲート駅」の到着ホームの主操作盤に向けて、本件ウォーターライド施設を停止するように一方的に指示したが、その数分前に持ち場に戻ったばかりの小島は、情勢の確認等に追われるなどして、右の指示に気付かなかったために、直ちには右の措置を採ることはできず、結局、本件事故発生の後の同日午後〇時一六分頃、本件事故の発生を知らせる無線連絡を傍受し、現場に急行した警察官の指示によって、営業運転終了ボタンを押して、本件ウォーターライド施設全体を停止させたにとどまった。

(本項につき、甲第四九号証(甲第七六号証、乙第二六号証)、甲第七二号証ないし甲第七四号証、甲第七七号証、甲第七八号証(乙第四二号証)、甲第八〇号証、甲第八一号証、乙第三二号証、乙第三五号証ないし乙第四一号証、乙第四三号証、乙第八〇号証、乙第八二号証、乙第八八号証並びに証人新保章、同小島資郎、同田中信夫及び同津吉良政の各証言)

5  このように、本件ウォーターライド施設においては、「街の駅」及び「中央ゲート駅」の各ホーム前のホームコンベアは、全体のシステムとは連動したものとはなっておらず、各駅舎の各ホームに設置された操作盤の操作によって起動、寸動又は停止させることができるものとされており、また、本件ウォーターライド施設全体の起動・停止は、主操作盤の営業運転終了ボタンを押すことによってのみ可能なものとされていたものであるところ、本件事故は、同日午後〇時五分頃に「街の駅」の出発ホームの操作盤の出発ボタンを操作してもホームコンベアが起動しないという不具合が生じたにもかかわらず、主操作盤の営業運転終了ボタンを操作して本件ウォーターライド施設全体を停止させるという措置が採られないままに約一〇分間が推移したために、「街の駅」の出発ホーム前から同駅の到着ホーム前を経て同駅の手前に設置されたC4コンベアの降り口までの約一四〇メートルの間に、一九号ライドを先頭として合計九台のライドが数珠つなぎ状に滞留することとなり、そこへ後続のライドが水路コンベアによって運ばれてきて順次先行のライドに接触し、これにより四号ライドの三隻目のボートと五号ライドの一隻目のボートの接触部が競り上がることになって、同日午後〇時一五分頃、四号ライドの三隻目が水路側壁を乗り越えて隣の水路側に横転し、また、五号ライドの一隻目が鉄橋のトラス構造の隙間から七メートル下の道路上に転落し、同ライドの二隻目も後ろからの推力と落下した一隻目に引きずられて転落し宙吊りとなって、本件事故の発生となったものである。

6  そして、「街の駅」の出発ホーム前のホームコンベアが起動しなかったという不具合は、ブレーキ開検出用リミットスイッチが一時的に動作しなかったために、電気的に「ブレーキ故障」が検出されて安全機構が働いて、制御回路の電源が遮断されたために生じた一過性のものであり、本来はリセットボタンを操作することによって解消する類いのものであって、本件事故に際して、メンテナンス要員の岩橋がリセットボタンを操作したにもかかわらず、右の不具合が解消しなかったのは、出発ボタン及び寸動ボタンの操作中にリセットボタンが操作されたために、直ちにブレーキ故障の状態に戻ることになったことによるものと推定される(甲第九二号証)。

また、ボートの接触部の競り上がり現象は、ボート相互間に約六〇〇〇キログラム弱の力が作用し合った場合に生じ得るものであって、六号ライドが五号ライドに接触した時、C4コンベアの推進力が水路コンベア面とその上に乗っているボートの底面との間の摩擦力を介して水路コンベア上にあった五号ライドの二隻目及び三隻目並びに六号ライドの三隻のボートの合計五隻のボートに伝えられ、その結果、五号ライドの一隻目と四号ライドの三隻目との相互間に約六〇〇〇キログラム以上の力が作用し合う状態となって発生したものであると認められる(鑑定人藤野正隆及び同吉本堅一の鑑定の結果)。

三  本件ウォーターライド施設の瑕疵の存否

1  本件事故の発生の経過とその原因は、以上のようなものであったのであって、「街の駅」のホーム前のホームコンベアが電気的故障、機械的故障等の何らかの理由によって一定時間以上停止した場合には、「中央ゲート駅」の到着ホームの主操作盤の操作者が営業運転終了ボタンを操作して本件ウォーターライド施設全体を停止しない限り、前記のような発生の機序によって、本件事故のような事故の発生をみることになるのであるから、本件ウォーターライド施設の瑕疵の存否としては、結局、本件ウォーターライド施設の右のようなシステムないし設計そのものがこの種の遊戯施設が通常有すべき安全性を具備したものということができるかどうかということに帰することになる。

そして、この種の遊戯施設が通常具有すべき安全性といっても、もとより一義的・画一的なものではあり得ないのであって、自ずから設計者の選択と裁量を容れる余地のあるものであり、また、いかなるシステムといえども、およそ事故発生の可能性を完全に除去したものではあり得ず、また、必ずしもそのようなものである必要もないのであって、結局、当時の技術的実現可能性の下において、当該施設の目的ないし効用、安全性、経済性等を総合して判断して、設計者の選択したシステムが通常有すべき安全性を具備しているかどうかということが重要であり、また、設計者ないし施工者として、事業者が当該施設の適切な運行管理体制ないし運行ルールを確立して、合理的に予見することができる運行管理上の過誤を招来しないようにするために、当該システムによっては除去し得ない事故発生の危険性について必要な説明・警告を行ったかどうかということが問題となるのである。

2  これを本件ウォーターライド施設についてみると、先ず、本件ウォーターライド施設は、水路コンベアについては、無人化され常に自動的な運転が行われるものであるところから、ベルトコンベアの蛇行、断裂等の故障が生じた場合には、全ての水路コンベアが自動的に運転を停止するものとする装置(蛇行感知センサー、逆走防止装置等)を取り付け、また、雷や火災等が起きた場合にも、人的な対応が不可能であるので、自動的に運転を停止する装置(火災感知装置等)を取り付ける一方で、各駅のホーム前のホームコンベアについては、営業運転開始から営業運転終了まで常に運転し続けている水路コンベアとは異なって、乗客の乗降に合わせて運転と停止を繰り返すものであることから、各ホームに設置された操作盤の操作によって起動、寸動又は停止させることとして、これを水路コンベアとは別の制御系統とし、ホームコンベアの停止装置とその他の動力施設の停止装置とを連動させないこととしたものであって、このようにホームコンベアと水路コンベアとを別の制御系統に属するものとすること自体は、本件ウォーターライド施設のような構造の施設のシステムの設計上は、避けられないものであったということができる。

3  したがって、このようなシステムの下において生じる問題は、結局、ホームコンベアに故障等が発生するなどして起動が不可能になり、別の制御系統に属する水路コンベアをはじめとする本件ウォーターライド施設全体の停止措置が必要な事態に至った場合の対処のためのシステムをどのように構築するかにあるものということができる。

そして、被告は、本件ウォーターライド施設の設計に当たっては、ホームコンベアが故障等により停止した際に水路コンベアがそれに連動して自動的に停止するものとはせず、「中央ゲート駅」の到着ホーム一か所に設置した主操作盤の営業運転終了ボタンを操作することによって一元的に本件ウォーターライド施設全体が停止するものとしたものであり、甲第九二号証、甲第九七号証、甲第一〇五号証、甲第一一三号証(乙第七八号証)、乙第五四号証並びに証人八木順一及び今村紀の各証言によれば、その場合における対処方法としては、① 出発ホームの担当者が操作盤の出発ボタンを操作してもホームコンベアが起動しないときには、操作盤の故障表示ランプが点灯し、警報ブザーが吹鳴する、② その場合には、右操作盤の操作担当者は、各駅一階の電気室(制御室)に赴き、制御盤のリセットボタンを操作することによって、故障の回復を試みる、③ それによっても故障が回復しない場合には、右操作盤の操作担当者は、制御盤に設けられたインターフォンを用いて「中央ゲート駅」到着ホームの主操作盤の担当者に故障内容を連絡する、④ 主操作盤の担当者は、営業運転終了ボタンを操作して、本件ウォーターライド施設全体の運行を停止する、との一連の手順ないし装置を予定していたものであること、ホームコンベアが起動しなくなった時から右の一連の手順を完了するのに要する時間は、約二分間(主操作盤の担当者が停止指揮権者に指揮を仰ぐ時間を考慮に入れてもせいぜい約三分間)(甲第一一三号証(乙第七八号証)並びに証人八木順一及び同今村紀の各証言)であって、営業運転終了ボタンが押されさえすれば、水路コンベアは約四、五秒間で停止して、水流ポンプも徐々に停止し水流も約四分で完全に停止して、ライドを固定するストッパーが作動することになっていることの各事実を認めることができる。

4 以上にみたとおり、本件ウォーターライド施設におけるライドの動きは、ウォーター・シュート、コースター等の高速で走行することを予定した遊戯施設とは異なり、秒速約1メートルないし1.5メートルの緩行性の施設であり、運行管理者は、本件ウォーターライド施設の水路の敷設状態や構造上も、ライドの走行状態ないし異常事態の発生を容易に視認することができ、また、各駅のホーム前のボームコンベアが起動しなくなるという故障が生じても、本件事故におけるように、水路上にライドが数珠つなぎ状になって滞留して、ライド同士が接触して競り上がり現象を起こし、水路から脱線して転落するという事態が発生するに至るまでには約一〇分間という時間的な余裕があるのであって、およそ操作担当者において微妙な判断や技術的判断を迫られるということはなく、また、操作自体も営業運転終了ボタンを押すという単純な機械的操作に過ぎないのであるから、このようなシステムに適合した適切な運行管理体制や運行ルールが確立され、さらに、インターフォン、モニターテレビ、無線等による各部署間における連絡体制や監視装置が設けられるのであれば、この間に操作担当者の手違いや連絡の行き違い等があり得ることを考慮に入れたとしても、なお十分に対応することが可能であるということができ、本件ウォーターライド施設の設計者ないし施工者として、このような人的な措置が奏効しなかった場合に備えてこれを補完するような他の人的又は物的な措置を講じるまでの必要はないものといってよい。したがって、本件ウォーターライド施設の予定したシステムをもって、合理的に予見することができる運行管理上の過誤を看過したものであるということはできない。

この点について、原告は、本件ウォーターライド施設のような不特定・多数の乗客が利用する輸送施設にあっては、二重、三重の物的な安全装置をもって乗客の安全が確保されなければならないと主張し、その具体例を挙示するけれども、本件ウォーターライド施設は、およそ不特定・多数の乗客自身が直接これを操作することを予定したものではなく、あくまで事業者による運行管理を前提とした施設なのであるから、そのような事業者の運行管理の下における操作担当者による人的な措置によるものとすることも、もとより当然に許されてよいことである。また、安全の確保を専ら物的な装置に依存することにしたのでは、かえってそれへの過度の信頼を生む危険性もあり、必ずしも物的な装置であるが故に万全なものであるともいえないのであって、結局、これらの物的な安全装置と人的な操作を適切に按配して、いかにして全体として安全を確保するかということこそが、この種の施設の設計上の課題であるといってよい。したがって、本件ウォーターライド施設が本件事故におけるような危急時への対応を専ら前記のような人的な措置に依存して、原告の主張するような物的な安全装置を二重、三重に備えていなかったからといって、その人的な措置がそれとして十全なものである以上は、本件ウォーターライド施設に瑕疵があるものということはできないし、これと同様の理由によって、鑑定人藤野正隆及び同吉本堅一の鑑定の結果も、採用することができない(なお、証人八木順一の証言によれば、原告の挙示する前記の具体例中の一部のものは、被告の主張するとおり、必ずしも実際的又は実効的ではなかったり、場合によってはかえって誤作動の危険性があるものであることが認められる。)。

5  さらに、本件ウォーターライド施設は、前記のとおり、建築基準法八八条一項、同法施行令一三八条二項二号にいわゆる「ウォーターシュート、コースターその他これらに類する高架の遊戯施設」に該当するものと解すべきものであるところ、同令一四四条四号所定の「軌条又は索条を用いるものにあっては、客席部分が当該軌条又は索条から外れるおそれのない構造とすること」との規定は、コースター、モノレール、ウォーターシュート等のように軌道又は索条に沿って運動する高架の遊戯施設について、定常走行速度での運行中に運行に伴って発生する運動エネルギー(遠心力、慣性等)により、客席部分が軌道等から離脱する危険性のあるような構造のものであってはならないものとする趣旨のものであって、本件事故のような場面を想定したものではなく、本件ウォーターライド施設が右建築基準法令の定める基準に適合しないものということはできない。

また、同令一四四条七号所定の「動力が切れた場合、駆動装置に故障が生じた場合その他客席に居る人が危害を受けるおそれのある事故が発生し、又は発生するおそれがある場合に自動的に作動する非常止め装置を設けること」との規定は、右のような高架の遊戯施設について、動力が切れ又は駆動装置に故障が生じたような場合において、重力の作用等により、客席部分が暴走し、逆走し又は落下するなどして乗客に危害の生じることを防止するために、自動的な非常停止装置を設置すべきものとしたものであって、本件ウォーターライド施設においても、自動的に駆動する水路コンベアについては、ベルトコンベアの蛇行、断裂等の故障が生じた場合には、全ての水路コンベアが自動的に運転を停止するものとする装置(蛇行感知センサー、逆走防止装置等)が取り付けられているのであり、これを越えて、右建築基準法令の定める基準が本件事故のような場合に対する対応策としてまで非常停止装置を設置すべきことを要求しているものとは解されない。

したがって、本件ウォーターライド施設は、これらの建築基準法令の定めるところに違背するものとはいえない。

6  以上のとおりであるから、本件ウォーターライド施設は、この種の遊戯施設が通常有すべき安全性を具備したものであったということができる。

四  被告の説明・警告義務違反の有無

1  次に、被告の説明・警告義務違反の有無について検討すると、本件ウォーターライド施設の設計者ないし施工者としての被告は、原告ないしジャスコに対して、原告ないしジャスコが事業者として本件ウォーターライド施設の適切な運行管理体制ないし運行ルールを確立して、合理的に予見することができる運行管理上の過誤を招来しないようにするために、事故発生の危険性について必要な説明をし警告すべき義務を負うことは、先にみたとおりである。

この場合において、本件ウォーターライド施設は、あくまで不特定・多数の乗客自身が直接これを操作することを予定したものではなく、原告ないしジャスコが事業者として適切な運行管理体制ないし運行ルールを確立してその運営に当たることを予定したものなのであるから、被告が原告ないしジャスコに対して負う右のような説明・警告義務は、原告ないしジャスコが事業者として適切な運行管理体制ないし運行ルールを確立して、合理的に予見することができる運行管理上の過誤を招来しないようにするのに必要かつ十分なものでなければならず、また、それをもって足りるものである。

2  そして、甲第二九号証、甲第三七号証、甲第三九号証、甲第四〇号証、甲第四二号証、甲第四四号証、甲第四六号証ないし甲第四八号証、甲第四九号証(甲第七六号証、乙第二六号証)、甲第五〇号証、甲第八六号証、甲第一〇一号証、甲第一〇六号証、甲第一〇七号証、甲第一一四号証、甲第一一五号証(乙第二一号証)、甲第一一六号証(乙第七九号証)、甲第一一九号証、甲第一二三号証、甲第一二五号証、乙第九号証、乙第一八号証、乙第二五号証、乙第二七号証、乙第五三号証ないし乙第五七号証、乙第五九号証、乙第六〇号証、乙第六三号証ないし乙第六五号証、乙第六七号証、乙第八三号証、乙第八四号証、乙第八六号証、乙第九八号証、乙第一〇一号証、乙第一一四号証、乙第一一五号証、乙第一〇九号証、乙第一二一号証、乙第一二五号証並びに証人八木順一、同新保章、同今村紀、同小島資郎、同田中信夫、同津吉良政及び同野瀬敏晃の各証言によれば、被告は、本件ウォーターライド施設の前記のような設計の過程において、原告に対して、本件ウォーターライド施設の設計図書等を交付したほか、平成元年一〇月頃以降、原告に対して、本件ウォーターライド施設の運行方法の説明の一環として「始業前試運転手順」、「終業時機器停止手順」、「プラットホームコンベア営業運転要領」等を順次交付し、また、枇杷木と今村は、同年一二月一九日に施設の安全と非常時の対応をテーマとして行われた運営会議において、ジャスコからボートの運行等の業務の受託を受けた関西マネジや原告の関係者に対して、本件ウォーターライド施設の内容についての説明を行ったこと、さらに、被告は、本件ウォーターライド施設の完成後、引渡しに先立って、平成二年三月一日から二四日までの間、本件ウォーターライド施設の試運転と並行して、原告及びジャスコが受講者として指定した小島以下の関西マネジの担当者に対して、運行方法の指導ないし慣熟訓練を行ったが、その際、担当者であった枇杷木と今村は、関西マネジの担当者に対して、本件ウォーターライド施設の構造等の総括的な説明を行い、あるいは、前記の運転手順等を交付し、受講者を各現場に案内するなどして、各操作盤におけるライドの発着の操作方法や制御室のりセットボタンの操作方法等の説明を行うなどしたこと、今村や八木原らは、右試運転期間中の同年三月二二日及び同月二九日に本件事故現場付近においてライドが滞留し、後続のライドに押されたライドが損傷を受けるという事故が発生したこともあって、関西マネジの担当者らに対して、ライドを水路に滞留させないように再三にわたって注意したこと、ジャスコは、この間、奥山を総館長とする運営本部以下の本件ウォーターライド施設の先にみたような管理体制を定め、また、インターフォン、モニターテレビ、無線等による各部署間における連絡体制や要所の監視装置を整備したこと、ところで、ジャスコは、本件ウォーターライド施設の運行マニュアル等の策定を目的とした運営会議において検討を重ねたうえ、同年三月頃までには、これを完成したが、右運行マニュアルにおいては、本件ウォーターライド施設にベルトコンベア等の故障が生じた場合を代表例として、これに対する対応策として、① 故障を発見した主操作盤の担当者は運営本部に報告する、② 報告を受けた運営本部は総館長に報告する、③ 総館長は運営本部に停船を指示する、④ 運営本部は主操作盤の担当者に停船指示を伝達する、⑤ 運営本部は、故障の発生を総館長に報告するのと同時に、メンテナンス室にメンテナンス要請をし、現場に赴いたメンテナンス係員は復旧までの見込時間を運営本部に報告し、見込時間が一五分未満である場合には乗客を乗船させたまま復旧を待つが、それ以上の場合には、運行が不可能なものとして館長が退船を誘導するように指示する、⑥ そのほか、緊急時においては、主操作盤の担当者は本件ウォーターライド施設の全停止の措置を採る、ものとされていた(乙第九号証の五四頁、八七頁、八八頁参照)こと、以上の各事実を認めることができる。

3 このように、被告は、本件ウォーターライド施設の設計図書、運転手順書等の交付、本件ウォーターライド施設の構造、機器等の説明、各操作盤におけるライドの発着の操作方法や制御室のリセットボタンの操作方法等の運行方法の説明、運行方法の指導ないし慣熟訓練の実施などを通じて、原告ないしジャスコが本件ウォーターライド施設の事業者として運行管理体制を確立し運行ルールを策定するに足りる資料や情報を提供したものということができるし、いずれにしても、ジャスコないし原告は、前記のとおり、運営本部以下の管理体制を確立し、各部署間における連絡体制や要所の監視装置を整備した上、その策定した運行マニュアルにおいては、被告が危急時において採るべきものとしていたところに適合した前記のような一連の手順を定めていたのであって、本件事故時においても、右のような運行管理体制ないし連絡・監視体制の下において、操作担当者等が右運行マニュアルに定められた手順に従って的確に対応しさえしておれば、容易に本件事故を避けることができたことは明らかなところである。

4 したがって、被告は、原告ないしジャスコが事業者として本件ウォーターライド施設の適切な運行管理体制ないし運行ルールを確立し、合理的に予見することができる運行管理上の過誤を招来しないようにするのに必要かつ十分な説明・警告義務を尽くしたものということができる。

本件事故は、先にみたような本件事故発生の経過に鑑みると、結局、開幕二日目という時点において、未だ右の運行マニュアルが運行関係者等に周知徹底されず、それに従った的確な運行管理が行われなかったことによって発生したものというほかないのであって、これを本件ウォーターライド施設の設計者ないし施工者である被告の責めに帰することはできない。

第五  結論

以上のとおりであって、本件ウォーターライド施設にはなんらの瑕疵はなく、また、被告にはなんらの義務違反も見出すことはできないから、原告の本訴請求は、いずれも理由がないものとして、これを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官村上敬一 裁判官門田友昌 裁判官畑一郎は、転補のため、署名押印することができない。裁判長裁判官村上敬一)

図面3 〈省略〉

別紙契約状況一覧表〈省略〉

別紙一 〈省略〉

別紙二 〈省略〉

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